安川十郎「健康寿命が長い」「平均寿命と健康寿命の差が少ない」ことを誇れる地域にするのが私の夢です。

見方が変わった童話 その1 の続き

  • 2021.02.02

創作昔話 “ ウサギとカメ 其の弐 ”

「ウサギとカメ」のそのずっと後の話。カメの子供は、ことあるごとにウサギに勝った昔話を自慢する父親に辟易していました。相手の油断でたまたま超ラッキーに勝っただけなのに。面白いことに、世の中にはそれを含蓄ある話と都合よく解釈する者もいるらしく。それが父を増長させてしまっているようです。

そんなある日、何気なく道を歩いていると、後ろからウサギが声をかけてきました。
「相変わらずノロマな奴だなぁ。そんなんでこの世の中、楽しく生きて行けるの?」カメは穏やかに「ウサギはウサギの生き方、カメはカメの生き方があると思うよ」と答えます。しかしウサギは「でも同じ世の中に生きているし、実際こうやって同じ道を歩いてるだろ。で、トロくさい奴は目障りなんだよ」続けて挑発してきます。「現実を教えてやるよ。向こうの山のふもとまで競争しようぜ」

カメに勝ち目はありません。まさか自ら勝負を挑んできたウサギが昔話と同じ失敗をするはずもなく。それでも少しだけ考えてから、カメは勝負を受けました。ウサギに言われるまま位置につき、よーいドン。山のふもとに向かって走り始めます。カメが瞬きする間にウサギの姿は見えなくなってしまいました。カメは、ひいひいふうふう、まさしく一歩一歩進みます。その差は絶望的です。「なるほど。ウサギと競走するというのは、こういうことなのか。聞いていたのと、実際に体験するのとはやっぱり違うなぁ」この絶望的な勝負に勝った父親が、昔の話を繰り返し自慢したくなる気持ちが理解できました。そんな気持ちをかみしめながら、ひいひいふうふう、歩き、もとい走り続けます。

ようやっと道半ばに差し掛かったとき。なんということでしょう。道端の木陰でウサギが居眠りしているではありませんか。カメは驚き、いぶかしがりました。何かのサプライズ?罠?もしかしてウサギ違い?いえいえ、間違いなく先ほどのウサギです。ウサギがタヌキ寝入りするはずもなく、気持ちよさそうに寝こけています。
カメはまた少し考え、ちょっと嬉しそうにウサギに声を掛けました。「ウサギさん、ウサギさん。勝負の途中に居眠りはよくないよ。いったんゴールしてから戻ってきたと言ったって認められないよ」
「……え?……ン……あ…」ウサギは目を覚まして、寝ぼけながらカメを見ます。そして、怪訝そうな顔をしながらも山のふもとに向かって走り出しました。カメが振り返るころには、ゴールに着いていました。

ひいひい、ふうふう、ひいひい、ふうふう。それから半刻ほどしてから、ようやくカメもゴールにたどり着きました。文句なしの完敗でしたが、「この達成感はなかなか悪くない。勝負を挑まれて逃げなかった自分が、途中で投げ出さなかった自分が誇らしい」。カメは、父が無謀な勝負を受けた気持ちも理解することができました。ふと顔上げると、ウサギがこちらを見ています。走るのに夢中で気が付きませんでしたが、カメがゴールするまで待っていたようです。
「君がなぜ勝負を受けたのか。寝ている俺を起こしたのか。ずっと考えてた」ウサギは、挑発してきた時とは打って変わって、神妙な面持ちで話しかけてきました。
「俺なら勝ち目のない勝負は受けない。俺なら寝ている相手を起こさない」
ウサギは一息ついて続けます。
「そんな俺より、君の方がずっとカッコいい」

 カメは少し申し訳ない気持ちになりました。カメが勝負を受け、ウサギを起こしたのは、期待されているようなカッコいい理由ではなかったからです。単に、父と同じ境遇を体験し、家に帰って「僕もウサギと勝負してみたよ」と家族で話をしてみたかっただけなのです。「普通に負けたけどね」と報告するはずだったのに、まさか、ウサギが居眠りをするとは予想外でした。「ウサギとカメ」を踏襲するという選択肢もありましたが、違うパターンを選んだ方がずっと面白い気がして。ウサギを起こしたのは、その後の展開に対するワクワク感からでした。「不利な条件でも逃げない」とか「正々堂々」などという大層な理由でなく、家族団らんのネタ作りと好奇心に過ぎなかったのです。

 「しかしなるほど」とカメは納得しました。結局、ある出来事から何を読み取るかはその者次第なのです。今回の経験から、不利な勝負でも逃げない勇気、相手のミスに付け込まないスポーツマンシップ、の尊さを学んだウサギは、もともと彼自身にその気質があったのでしょう。もし彼が意地悪で高慢なウサギなら、同じ経験をしても、「考えなしに無謀な勝負を受けるわ、お人好しでせっかくのチャンスすら逃してしまうわ、カメってホントにバカな生き物だなぁ」と考えたはずです。

 同じように、「ウサギとカメ」の話から何を学び取るかは、それぞれの価値観の鏡なのです。不遇な状況でも腐らずに前に進み続ける尊さを感じる者もいれば、現実にはありえない話と鼻で笑う者もいます。まぁ、ほとんどの者はそんなに深く考えずに「威張ってる奴が調子こいて負けて爽快。地道な努力が一番…ていうありきたりな説教話ね」としか思わないんでしょうけど。

 ところで。カメは気になっていることを確かめてみることにしました。なぜウサギは昔話と同じ失敗をしたのか。ウサギの父親は自分の失敗談を子供には話さなかったのでしょうか。
「君はお父さんから『ウサギとカメ』の話は聞いてないの?」父から聞いていた競争相手のウサギの名前を伝えてみました。ウサギはちょっと考え込んでから答えました。
「んー。それってたぶん俺の曽爺ちゃんの曽爺ちゃんくらいのウサギのことじゃないかな。そんな何十年も昔の話なんか知らないよ」

安川クリニック

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