見方が変わった童話 その1
- 2021.01.24
唐突ですが。
個人的に、歳を取るにつれ、解釈に変遷のあった童話がいくつかあります。例えば。
ウサギとカメ
鈍足をバカにされたカメが、ウサギと徒競走することになります。結局、ウサギが途中で居眠りしてしまい、カメに負けてしまう話です。ウサギの自惚れ・油断を戒め、遅くとも一歩一歩堅実に進むカメを称賛する話だと思われます。
ウサギが悪役なのは珍しい気もしますが、幼少期はカメに好意的な時期でもあり、素直にカメが勝ったことを喜んでいました。しかし、小学校も高学年になってくると、少し捻った解釈をするようになります。
「たまたまウサギが居眠りしたけど、普通はウサギの圧勝やで。再戦すれば、二度とカメは勝てへんわ」
「居眠りしているウサギの横を黙って素通りするなんて、スポーツマンシップの観点からどうよ?」
「無謀なチャレンジでも、ごく稀に相手のミスで勝てるって話に意味あんの?」
など。
そして現在。教科書よりも実社会から学ぶことが増え、指示されることよりも指示することが多くなり。誰かが「君のゴールはここだよ」と決めてくれない立場になると、また認識が改まりました。
「あの山のふもとまで」と決められた競争なら、カメに勝ち目はありません。しかし「自分で決めた目標を 人生をかけて目指しなさい」を言われたら。性急な成果を求めるウサギのような人は途方に暮れるでしょう。実社会では、自分の決めた方向に向かって今日まず一歩、明日もう一歩、と歩を止めないカメのような人が道を作っていくのだと思います。
同じ話は数学の先生からも聞いたことがあります。一般的な試験では、人が作った問題を時間内に早く数多く解いた者(ウサギ)が良い点数を取ります。しかし、数学者として名を残すのは、例え数十年かかったとしても、答えがあるかすら分からない問題に挑み続け、成果を出す人(カメ)です。だから真に優秀な人材は、数時間で終了する入試問題では選別できません。本当に欲しいのは、数日かかってもいいから難問奇問を解き切る人です。でも、ほかに良い方法がないのだそうです。なので、とりあえず優秀なウサギを集めておいて、じっくりとカメを探すか、カメが目指してくれるような環境を作った教育機関が、結果的に優秀な人材を獲得するんだとか。
ダイエットでも同じです。数カ月で目を見張るような成果を出す人(ウサギ)もいます。美容目的であったり、痩せること自体が目的ならそれでも構いません。しかし、もしダイエットの目的が、健康のためや病気を治すためであるなら、数カ月では成果が分からないくらいの少しずつの努力を、数年数十年続ける必要があります。まさしくカメの得意分野です。
ウサギのように速く走るためには才能が必要です。でも、カメのように歩むのなら才能は不要で、誰にでも出来ます。すなわち「ウサギとカメ」は、人生という長丁場において、ウサギのような能力を羨む必要はなく、むしろカメのような特性を見習うべきと諭している童話だと解釈するに至りました。
ただ、世の中にはウサギの才能を持ってカメのように歩みを止めない人もいて。そんな人に対しては、努力を怠らない天才として称えるしかありません。