あなたは何を信じますか?
- 2022.11.30
私は原則として、その人が信じるものを否定しません。
例えば患者さんが、「雑誌に、この薬は副作用が強いからやめた方が良い、と書いてあるのでもう飲みたくない」と言ってきた場合。医学的な見解を説明した上で、なおその情報を信じるなら、それを尊重します。
「甘い」と言われるかもしれません。
あるいはむしろ「冷たい」のかも知れません。商業的な記事に踊らされて不幸な結果になった場合でも、「自己責任」と突き放しているように解釈できるからです。
それでも私は、その人の信じるものを尊重します。すべての医療行為にはメリットとデメリットがあります。納得していない治療を受けさせる権限は、医者には無いと考えています。
宗教的な理由で治療を受けない人もいます。信念を持って動物性蛋白質を摂らない人もいます。私は共感できませんが、否定もしません。
ネット情報を見て、高額な自由診療を受ける人もいます。雑誌を読んで、治療を拒否する人もいます。共感できませんが、否定もしません。
何を信じるかは、その人の自由です。法や倫理に反しない限り。
もちろん、診察室では「私の信じるもの」を精一杯説明します。
それが「科学」であり「医学」です。
医学研究も常に正しいわけではありません。間違っていることや、私利私欲で不正なデータが用いられることもあります。それでも、間違いを認め、誤りを正し、人々の研鑽の積み重ねで成り立っているのが科学です。
医学研究の結果は、クドクドと前置きが長かったり、方向修正に時間がかかったりと、面倒で鈍重なイメージがあるかもしれません。しかしそれは、多くの研究者が、それぞれ数えきれないくらいの試行錯誤を重ね、それらの結果を集めて検証し、それをもとに仮説を立て実証し……の繰り返しで出来上がった叡智の結晶です。とある個人が、思い付きや机上の空論を発信しているのとは根本から違います。
「Aという栄養素が入っているから体に良いのです!!」などという単純な話の方が、聞いてもらいやすいでしょう。「Bは食べてはいけません!!」という方が、興味を持ってもらえるかもしれません。しかし、科学は、医学は、そんな単純な面白い話ではないのです。一定の条件下で、何人に使用して、何人に効果があり、何人に効果がなく、副作用がどの程度あったか、何を置いても実証が必要なのです。
そんなつまらない話を、なるべく分かりやすく患者さんに説明するのが医者の仕事です。
私は多くの先人たちの努力の集大成である医学を信じています。しかし、それを人に押し付けるつもりはありません。
もし、私の話を聞いて、医学を信じてもらえるなら、一緒に治療して行こうと思っています。信じられない治療を受ける必要はありません。良いことも悪いことも我が身に降りかかってくるのですから。自分が納得できる道を選ぶことが肝要です。
なるべくその人の信じるものを否定せず、尊重するべきだと思っていますが。
いちおう。
それを信じる理由は考えてみて頂きたいのです。偉い人が言っているからですか?皆がそう言ってるからですか?
気を付けて欲しいのは「そう信じたほうが楽だから。自分に都合が良いから」という理由です。その場合、本当は “それが信じるに値しない” と気づいているはずです。
自分が何を信じるか。今一度、自分自身のために、よく考えてみてください。