安川十郎「健康寿命が長い」「平均寿命と健康寿命の差が少ない」ことを誇れる地域にするのが私の夢です。

葛藤の 肥満症治療

  • 2026.03.31

 「なんか良い痩せ薬ない?」と聞かれて「そんなモンあったら自分に使ってますわ」と言い返していたのも今は昔。最近は、飲むだけで、注射するだけで、体重を減らす薬が出てきています。まだまだ問題点も多くありますが、今後も改良を重ねて、安全に楽チンに痩せられる薬が開発されることでしょう。
 しかしこれを、少なくとも保険診療で治療することに対し、釈然としない、モヤモヤとした、納得しがたい、割り切れない、個人的な葛藤が少なからずあります。とりあえず三つほど。

1.根性論的な葛藤
 昭和世代の感覚でしょうか。楽すること自体に抵抗があります。苦労こそ美徳、みたいな。本当に欲しいものは、苦労して手に入れてこそ価値がある、みたいな。
 なので。楽して儲けている(ように見える)億り人とか、迷惑行為をネットに上げるだけで高収入がある(ように見える)ユーチューバーなどに、妬み・嫌悪感・羨望・やっかみなどが入り混じった複雑な感情を抱いてしまいます。
 同様に。「楽して痩せようとする人」を素直に応援することができません。
 しかしこの『根性論的な葛藤』は、自分でも改めようと思っています。労力を減らして成果を上げようとする工夫は否定されるべきではありません。

2.倫理的な葛藤
 ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士の言葉。「大半の医者や製薬メーカーは何千億円をかけて、豊かな国の老人たちのために競って新薬を開発している。私は数億円を使って貧しい国の子供たちを助けた。どう思うかね?」・・・確か、取材記者から製薬メーカーの出資を揶揄するような質問があった時の返答だったと思うのですが。ネット検索ではソースが出てこず、本人の言葉ではないかもしれません。しかし、実際、大村智博士はイベルメクチンを開発し、これを無料供与することで、発展途上国の多くの子供たちを救いました。
 ひるがえって肥満症治療。どう思います?
 食べたものを吸収させにくくする薬や、その糖分や油分を尿や便で排出させる薬も開発されています。でもそれって、食べた後、口に指を突っ込んで吐いていることと変わりありません。「美味しいものをたくさん食べたい、でも太りたくない」・・・そんな人間の欲望を叶えることを『治療』と称して良いのか。
 「食欲を抑える薬なら問題ないのでは」という意見もあるでしょうが。やはりそれでも『治療』と呼べるのか疑問です。その目的は、過食で損なわれたスタイルを取り戻すため、すなわち多くの場合、「また過食するため」や「美容目的」でしょう。
 「豊かな国」の「食べすぎ」を「治療」することに。葛藤が尽きません。

3.生物学的な葛藤
 そもそも、太りやすい体質は生物学的に優れているのです。少量のエネルギーで生命活動を維持できるのですから。それを、わざわざ、痩せやすい体質を目指すなんて。
 自動車の燃費で考えてみて下さい。燃費の良い車があります。でも、ガソリンをたくさん入れたい。仕方ない。急発進、急ブレーキを繰り返して、燃費を悪くしましょう。なるべく重い荷物を積んで走りましょう。できれば性能の悪いエンジンに積み替えて、さらに燃費を悪くしましょう。・・・ということですよ!?
 痩せにくい、そんな優れた体質を持つ方を、まるで悪い病気であるかのように扱い、燃費の悪い体にしてしまおうだなんて。
 人類全体の「生物学的な正しさ」を考えてしまうと。葛藤が止まりません。

 とはいえ。せっかく日本に生まれたのですから。「食べ物がなくて餓死する人もいるのに。お腹一杯食べるのは悪」という正論は極端すぎます。
 また、実際問題、肥満症を放っておくと、多くの人が病気になって医療費が高騰し、労働力が失われることで税収が低下します。肥満症の介護の大変さは、現場の人間なら誰もが知るところでしょう。肥満症対策は国策とも言えます。
 妙な葛藤などチャチャッと捨て去って、肥満症の治療をどんどん取り入れるべきです。せっかくですから保険適応外も自由診療で治療すれば、病院も儲かってWin-Winです。
  でも・・・
  ねぇ・・・
  やっぱり・・・
  なんというか・・・
 私が葛藤を克服するのには、まだ時間がかかりそうです・・・・・・
 

安川クリニック

院長

安川 十郎

診療科目

内科・在宅診療

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