印象に残っているセリフ その6
- 2026.02.28
以前、大学病院で外科医をしていたこともあり、ときどき聞かれることがあります。「今度手術することになったんだけど、心付けは渡した方がいい?どれくら包めばいい?」
結論から申しますと「必要ありません」。またまた綺麗ごとを・・・と思う方もいるかもしれませんが、ホントに全く必要ありません。
映画、漫画、インタビューなどで、今でも心に残っている台詞がいくつかあり、例えば。
王の病室
“医は仁術” を実践し診療所を経営破綻させてしまった父を持つ主人公。父を反面教師に “儲かる医者” を目指していくのだが・・・。医師の実情、命と金の問題、終末期医療の問題など、かなり際どいテーマに切り込んだ読み応えのある医療マンガです。
その中で、主人公が指導医に諭されるシーンがあります。「日本の医師は、常に最善の治療をしている」「目の前の患者が国王で、絶対に助けろと言われても、結局、我々はいつも通りの治療をするだろう」「それがどういうことか分かるかね?」
「この病院には200人以上の“王様”が入院してるんだよ」
作中の指導医は、無尽蔵に消費される医療費に対してネガティブな意味でこのセリフを言ったのですが。確かに日本の医療は、患者の地位や財力で治療が変わったりしません。私自身、たとえ総理大臣を診察することになったとしても、その前に診た患者と全く同じ説明をし、全く同じ治療法を勧める自信があります。
ですので。いくら心付けをはずんでも、より良い治療が受けられるわけではありません。また、心付けがなかったからといって、治療が変わることも絶対にありません。良くも悪くも日本の医療は、富豪に対しても、無一文に対しても、同じ治療が行われます。お金があれば、病室が豪華になったり、教授の挨拶が増えたりはするかもしれませんが。
心付けをもらう側の医者の本音も少し。
差し出されたお金を断るのは難しい。押し問答している所をほかの人に見られたくもないし。患者の好意を拒否して不快にさせるのも避けたい。お金を貰える嬉しさよりも、困惑が先に立ちます。
大学勤務時代、受け取らないと強い信念を持った先生は、走って逃げていました。本当に文字通りダッシュして逃げていました。それくらいしないと断れない。あるいは、サラッと受け取っておいて、患者が退院するときに、表書きを“快気祝い”に書き換えて返しているスマートな先生もいらっしゃいました。
私は・・・まぁ素直に受け取っていました。いちおう、同僚と「心付けは、医学書など研鑽に使おう」というルールを作って。ふるさと納税などと同じく、違う財布に入れても使う人間は同じなのですから、ごまかしに過ぎないんですけれども。
正直なところ、心付けは「ちゃんと診てくれよ」というプレッシャー、あるいは「ちゃんと診てくれるの?」という不信がこもっているような気がして。頂いて嬉しいのは手術後のお礼でした。こちらは素直な「感謝」が込められているような気がして。中でも記憶に残っているのは、ご高齢の女性から頂いた、ティッシュペーパーで丁寧に包まれた千円札です。身寄りなく、祝儀袋も用意できなかったのでしょう。精一杯の感謝の気持ちをありがたく頂きました。使うこともできず、初心の戒めとして大事にしまってあ・・・ったはずなのですが。お恥ずかしい。さすがに30年前の話で、探してみたものの見つかりませんでした。
ちなみに、医療関係者の必読書にしてほしい『王の病室』。全3巻となっていますので、興味ある方はぜひ読み切ってください。1巻だけだと、医療費の負の面がクローズアップされているので。
